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岡山家庭裁判所 昭和62年(少)1680号 決定

少年 M・T(昭43.3.5生)

主文

この事件について少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は、昭和62年2月2日午前7時40分ごろ、岡山市○○町×丁目×番×号先道路において、普通乗用自動車を運転中、あやまつて自車を、同所に停止中のA運転の普通乗用自動車に追突させ、同車のリヤーバンバーに損壊(損害額28,300円)を与えたのに、直ちにもよりの警察署の警察官に当該事故の発生した日時、場所、損壊した物等法令の定める事項を報告しなかつたものである。

(適条)

道路交通法72条1項後段、119条1項10号

(処遇)

本件は事案軽微であること、少年の処分歴は仮免許違反で昭和61年6月24日当庁で不処分決定を受けたのみであること、本件については示談成立していること、少年は十分反省していること等を考慮すると、少年を保護処分に付する必要はないと思料される。

(本件送致事実中業務上過失傷害の事実について)

1  本件は、当裁判所において、昭和62年5月27日少年法20条により検察官送致決定をしたところ、検察官は本件送致事実中の業務上過失傷害の事実について、犯罪の嫌疑が不十分であるとの理由で、同年6月22日本件を当庁に再送致してきたものである。

2  本件送致事実は上記非行事実(報告義務違反)のほか、「少年は、昭和62年2月2日午前7時40分ごろ、普通乗用自動車を時速約5キロメートルで運転して岡山市○○町×丁目×番×号先路上にさしかかり、同所で前車(停止中の普通乗用自動車)に続いて停止中、後部座席のバツグを取ろうとしたが、同所は坂道であつたから、サイドブレーキをかけて車両が前に出ないようにしておかなければならないのにこれを怠り、ちよつとの間で車は動かないだろうと軽信して身体を後に傾けた過失により、ブレーキペタルを踏んでいた足がゆるみ、そのため車両が発進して前車に追突し、その衝撃により前車を運転していたA(44才)に対し、治療約19日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせたものである。」というにある。

3  そこで、本件業務上過失傷害の事実について検討するに、本件記録および当審判廷における少年の供述によれば、少年の車両が停止した地点から前車に追突した地点までの距離は2.2メートルであること、本件事故現場は平坦で乾燥したアスフアルト舗装の道路であり、その勾配は220分の6.7センチメートル下りであること、本件衝突時の少年の車両の時速は約1キロメートルであつたことが認められる。そうすると本件衝突により被害者の受けた衝撃は極めて軽微であつたと推認せられ、このことは加害被害両車両の損傷の程度が極めて僅少であつたことからも裏付けられるところである。結局、本件事故によつて、被害者が真に傷害を負つたか否か明らかでなく、事故と傷害の因果関係を認めるに足る証拠が十分でないといわざるを得ない。

よつて、本件業務上過失傷害の事実は「非行なし」とする。

(結論)

よつて、この事件については、少年を保護処分に付さないこととし、少年法23条2項により主文のとおり決定する。

(裁判官 小河基夫)

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